刊行書籍

贈与をめぐる冒険新しい社会をつくるには

岩野卓司

資本主義を「変質」させるために

栗原康さん推薦!
「こいつはどっこい革命の書だァ!
義務も制裁もない道徳をいきろ。
プレゼントをなめるな。」

貧困や格差の拡大、つながりの喪失による孤立や無縁化、生態系の破壊……、わたしたちの社会は大きな困難に直面している。
このままでは世界はいったいどうなるのか、そんな不安を感じながら生きている人は少なくないだろう。

こうした課題の根本的な原因といえるのが、資本主義の行き過ぎである。
しかし、わたしたちは資本主義の恩恵も受けており、資本主義を何かほかのものに変えれば問題が解決するということではない。そもそも貨幣とモノとの交換である経済の前には、何かを与えてお返しを受け取ることで交換が成立する経済があった。
これが本書のテーマである「贈与」である。
資本主義社会では何よりも経済的な利益が優先されるのに対して、贈与の大きな特徴は、モノの移動にともなって人と人、人とモノのあいだに精神的な交流が生まれることである。

では、このような贈与の考え方を現代社会に活かし、行き過ぎた資本主義を「変質」させることはできるのだろうか。
古典的な贈与の理論をふまえながら、同時に現代社会でおこなわれている贈与の考えを取り入れたさまざまな取り組みを読み解き、わたしたちがこれからの人間どうしの関係、自然と人間との関係を問い直し、新しい社会をつくるための手がかりを探る。

プロローグ
オンラインと格差/混沌とした時代と揺らぐ価値観/贈与の可能性/贈与のいま

第1章 贈与をめぐる日常――プレゼントはなぜうれしいのか

1 あげる人、もらう人
子供と大人の違い/友達どうしの水平な関係
2 贈与とお返し
悩ましいバレンタインデー/お祝いにお返しは不文律
3 贈り物をするわけ
人間関係をつくるための手段/記念日とプレゼントは切り離せない
4 贈与の力学
贈る側がつねに優位/ポトラッチと朝貢貿易/贈与と権力
5 贈与の毒
悪意の贈与もある/無意識にひそむ贈与の毒

第2章 与えられているもの――贈与と他者

1 校 則
校則に反発したくなる理由
2 法 律
一方的に与えられているわけではない/贈与としての憲法/アンガージュマン
3 文 法
自覚しないで従うルール
4 言語のシステム
ラング(言語)による支配
5 結婚のシステム
現代に残る慣習/インセスト(近親相姦)はなぜタブーか
6 知 識
他者から与えられるもの/情報・資料・所与/贈与と哲学/他者とのかかわり

第3章 贈与の慣習――贈与と資本主義Ⅰ

1 贈与と社会的慣習
面倒なコミュニケーション/世間と「村八分」
2 贈与と村社会/村社会の掟/商業的交換の功罪
3 資本主義
金がすべて?/贈与につきまとう不平等/広がる格差/「無縁社会」の到来

第4章 新しい贈与のかたち――贈与と資本主義Ⅱ

1 社会保険
セーフティネットの役割/モースの着眼
2 ギフト・エコノミー
「カルマ・キッチン」と贈与の連鎖/ギフト・エコノミーの弱点/クルミドコーヒーによる「ゆっくり、いそげ」の冒険/「消費者的な人格」と「受贈者的な人格」
3 ボランティア
ゆるやかな自己贈与/ボランティア精神の根底にあるもの/贈与によるつながり

第5章 自然の贈与――感謝するということ

1 気候変動
加速する温暖化/自然の支配
2 自然の恵み
「生態系サービス」「自然資本」という考え/太陽の贈与/太陽に由来するハロウィンとクリスマス/「いただきます」/草木塔/鯨供養
3 宮沢賢治と自然
「よだか」の苦悩/蝎の願い/狼森と笊森、盗森

エピローグ 
ブックガイド
あとがき

著者について

岩野卓司(いわのたくじ)
東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。パリ=ソルボンヌ大学大学院博士課程修了。博士(哲学)。現在、明治大学教授(教養デザイン研究科・法学部)。主な著書に、『ジョルジュ・バタイユ─神秘経験をめぐる思想の限界と新たな可能性』(水声社)、『贈与の哲学――ジャン=リュック・マリオンの思想』(明治大学出版会)、『贈与論――資本主義を突き抜けるための哲学』(青土社)、主な訳書に、ジャック・デリダ『そのたびごとにただ一つ、世界の終焉 Ⅰ・Ⅱ』(共訳、岩波書店)、『バタイユ書簡集 一九一七-一九六二年』(共訳、水声社)などがある。
贈与をめぐる冒険 新しい社会をつくるには

贈与をめぐる冒険 新しい社会をつくるには

岩野卓司

装丁:図工ファイブ(末吉亮)

2023年5月16日・刊 定価:1,900円+税 182ページ ISBN: 9784909753168 並製