母と子の未来へのまなざし母子生活支援施設 カサ・デ・サンタマリアの25年
宮下慧子・須藤八千代(編著)
転換点に立つ母子生活支援施設のこれからを問う
母子生活支援施設は、生活困窮やDVなどで支援の必要な女性とその子どもを受け入れ、自立にむけての支援を展開してきた。全国に224か所あるが、横浜市にあるカサ・デ・サンタマリアは先駆的な取り組みを行ってきた施設として知られる。
だが、社会情勢や人々の意識の変化から当施設に限らず、利用者減少問題を抱えている。なぜ利用されなくなっているのか。何が足りないのか、どう変わればよいのか。そのような問いを社会と広く共有するために、職員たちが25年の実践を振り返った。あわせて母子生活支援施設に関する社会政策、フェミニズム、ジェンダーなどの視点からの研究者の論考も加え、今後の母子福祉や施設のあり方を模索する。
はじめに
第Ⅰ部 母子生活支援施設を拓く―― カサ・デ・サンタマリアの25年
1 母と子の尊厳を守るために 宮下慧子
カサ・デ・サンタマリア設立の経緯/カサ・デ・サンタマリアが目指したもの/25年の支援を振り返る/懐かしいゆりかごであるために
第Ⅱ部 母と子に寄り添う人々――支援のリアル
2 悩みながらも真摯に向き合う― 母子支援という仕事 細木典子
言語化の難しい仕事/誰も信じられなかったRさんとの日々/退所延期の希望をかなえられなかったIさんの無念/Mさん本人の思いにそった自立支援/今後の母子生活支援施設のあり方/母子生活支援施設の使命とは
3 子どもの支援で大切にしてきたこと 寺田有市
支援者の役割とは/新しい家に子どもたちを迎え入れる/とにかくまず子どもの話をよく聴く/子どもたちは自分で選び、変えることができる/学習が先か、心の回復が先か/遠足に行きたい、けれど母が……/心の距離 /子どもを支えるということ
4 その人が答えをもっている――私を変えたある母との出会い 篠原惠一
「早く人間になりたい」Aさんとの出会いと別れ/母子生活支援施設の限界を超えるために
第Ⅲ部 アフターケアと多文化ソーシャルワーク
5 退所後も伴走し緩やかに支援する――母と子が地域で安心して暮らせるために 方こすも
25年の歩みから振り返る/アフターケアと自立支援/統計からみるサンタマリアの入所者像 /アフターケアという多文化ソーシャルワーク /求められるグローカルな視点
6 「ことば」を見つめて――外国にルーツを持つ母子の困難と希望 清水石道子
外国にルーツを持つ母子の調査研究の概要/女性や子どもたちが置かれている社会背景/外国にルーツを持つ母子支援の実際と課題/見えてきた課題/「ことば」の視点を取り入れた支援の再構築を/まとめに代えて― 多文化ソーシャルワークに求める希望
第Ⅳ部 母子生活支援施設のこれからを問う
7 母子生活支援施設と社会政策 武藤敦士
母子世帯の「自立」支援/母子家庭等自立支援対策大綱/サテライト型母子生活支援施設/母子世帯支援の方向性/社会的養護と母子生活支援施設/「新しい社会的養育ビジョン」と母子生活支援施設/施設を区分することの是非とドイツの事例/「私たちのめざす母子生活支援施設報告書」における支援の特徴/母子生活支援施設と暫定定員問題/職員に求められる福祉観/施設のセールスポイントは何か/母子生活支援施設を知ってもらう取り組みを
8 もうひとつの「母親規範」を求めて 横山登志子
モヤモヤの正体/ミヤコさんと子どもたち /施設入所後、裁判と並行した不安定な生活(2年2カ月) /子の入学と母の復職にむけて限界が極まった時期(8か月)/分離にむけての支援(1カ月)/母子分離のその後 /支援をふりかえって/母親規範をめぐって/「積極的母子分離」という選択肢/2つの母親規範/本質主義的母性主義に対する戦略的母性主義/戦略的母性主義から示唆されること/ひとつのアイデンティティを生きているわけではない/もうひとつの大問題―「不在の父」問題/最後に私の「母親規範」をめぐって
9 フェミニズムの杭を打ち込む――母子生活支援施設とフェミニストソーシャルワーク 須藤八千代
「あいだ」は埋められたのか/フェミニズムと母子生活支援施設/研修会での事例/個人的なことは社会的なことである/母子生活支援施設とフェミニストソーシャルワーク/逸脱した母親/記録フォーマットが作り出す現実/ソーシャルワークと記録―記録の中の家族 /ジェンダーを位置づけた家族/熱い心と冷静な頭
あとがき
著者について
●みやしたけいこ 社会福祉法人礼拝会 理事長1966年カトリック礼拝会に入会し、女子学生寮や幼児教育に従事。1993年緊急一時保護施設ミカエラ寮勤務。1996年母子生活支援施設カサ・デ・サンタマリアの開設時より2017年3月まで施設長を務めた後、2021年3月までミカエラ寮寮長。
●すどうやちよ 愛知県立大学名誉教授
著書に『増補母子寮と母子生活支援施設のあいだ』(明石書店、2010年)、『婦人保護施設と売春・貧困・DV問題――女性支援の変遷と新たな展開』(編著、明石書店、2017年)、『ジェンダーからソーシャルワークを問う』(編著、ヘウレーカ、2020 年)など他多数。
母と子の未来へのまなざし 母子生活支援施設 カサ・デ・サンタマリアの25年
宮下慧子・須藤八千代(編著)
装丁:図工ファイブ(末吉亮)
2021年11月10日・刊 定価:2,500円+税 312ページ ISBN: 9784909753120 並製